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2013年6月17日月曜日

ミンダナオ島、平和教育事例紹介:Peace Village Residential Experience(平和村居住体験)(3)

[プログラムの内容]
Shower of Pace(平和のシャワー)
 子どもたちに印象深かったプログラムを挙げてもらうと、このプログラムを上げる子どもたちが多かったです。4日間のキャンプは、このプログラムから始まります。どこからともなく放水車がやってきて、子どもたちがそれを浴びるという、驚きの集団朝シャワーです。これがプログラムとされ、平和のシャワーと冠する理由は、水は多くの宗教で汚れを荒い流すとされているためと言います。あらゆる偏見や怒りなどを洗い流して新たに一日を始めることを説明されます。4日間は皆でシャワーをしますが、自宅に帰ってからもそう言った気持ちで朝のシャワーを浴びるようにといったアドバイスを受けます。
 元々は、平和村の水がキャンプ開催中に故障したため、放水車を呼んだそうです。放水中にホースから水が漏れて回りに向けて噴射し始めると、子どもたちが喜んで駆け寄って、楽しんでいたそうです。その様子を見て、以降は意図的に放水車の水を用いてシャワーを浴びるようにしたといいます。

 日本人からすると中々刺激的な始まりですが、 子どもたちが笑顔で駆け回る中、朝日に放水車からの水が反射して虹が現れ、美しく印象的なプログラムでした。

Peace Parade(平和パレード)
平和村で重要な要素は、子どもたちが楽しい思い出と平和のコンセプトを結びつけて思い出せる
こと。地域の高校や、小学校、先生たちも仮装して、パレードをします。事のほか先生が忙しい合間を楽しめる行事のようにも見えました(笑)けど、先生が楽しむのも大切ですよね。 


KIDs say no to gun(暴力への否定)
説明を追加
子どもたちにこれまでクリスマスや誕生日にもらったおもちゃの銃を持ってきてもらい、それをフィリピン政府軍の人が渡す苗木と交換します。命を破壊する象徴である銃を命の象徴である苗木を交換し、平和を植えるということを象徴的に行います。
集めた銃は、皆で破壊します。子ども版のDDRのDisarmament(武装解除)のような様相です。

 フィリピン政府軍に関わってもらったというのは非常に重要だと思います。彼らの途中で行なったレクチャーや彼らの環境に対する取り組みは、セキュリティの問題も織り交ぜながら説明するため、子どもたちには難しすぎ、レクチャーから学びづらかったのは残念でしたが、ユニフォームを着た彼らがセレモニーに参加するというのは子どもたちに良い意味での緊張を与え、よかったのではと思います。
 
 同日夜の式典の後は、政府軍の中のバンドが教員向けライブを開催していました。彼らもお祭りモードを彼らなりに楽しんでいたようです。

Pledge to Peace(平和の誓)
 KIDs say no to gunの後は、皆で暴力行為を否定し平和を作る担い手になることを誓う、手形を押すセレモニーがあります。彼らが各地域で、平和なコミュニティを作る担い手となって欲しいと願うばかりです。

Meditation(瞑想)
 タイのNGOが来て、特に教員に対して瞑想のトレーニングを行いました。先日書いたとおり、先生もそして子どもたちも瞑想を行っているため、初めてではないものの、今まではインターネットを通じて行っていたものを僧侶の直接の指導を受けて行うというのは初めての試みであったようです。
 
 後日談ですが、今まで子どもたちはインターネットを通じて僧侶から指導を受け、その姿を見ていました。しかし、本物の僧侶の登場に驚きと興奮で、僧侶(外国ではジョンと名乗っているそうです)が歩くと子どもたちがついてまわるという現象がおこったそうです。子どもたちとはいってもタイの僧侶は女(の子)と接触しては行けません。その理由を聞いた数名の男の子がボディーガードをかって出たと言います。

[感じたこと]
 プログラムの意義付も重要ですが、教育省トップを含め教員が子どもたちが楽しい思い出を作って帰れるように気遣っていたように感じられました。

外国人が訪れた珍しさから、ラジオ番組に出演することに
こういうパターンって多い気がする(^^;
この平和村のキャンプと並行して、リージョンの代表教員を集めて平和教育を進めていくための研修が行われていました。子どもたちへのインタビューやプログラムへの参加で忙しくしていたためそちらの方に中々顔を出すことができなかったのが悔やまれますが、子どもたちのみならず教員にトップダウンの形で研修が行われているというのは効果的であると思われました。

 また、平和教育などのプログラムも大切ですが、学校の勉強も怠れない、また教員の質も上げなければならないという課題があったそうですが、子どもたちの学校の出席率とリージョン全体の成績が上がったといいます。成績上昇の明確な理由は不明ですが、教育省のトップがそこにも意識を払っていたようです。


 このプログラムを精力的に勧めていた教育省トップが昨年で定年となってしまいました。悲しいことに、トップが音頭をとって勧めていたことは次期のトップでは継続されないことが往々にしてあります。その理由は、内部政治であったり、ライバル意識など人間関係に関わることが原因であると聞きます。また、こうしたプログラムは更なる人的又は予算の投入が必要であるため、熱意も重要な要素です。

 継続を望み、プログラムの中のセレモニーでは州知事を呼び、州知事に象徴的な鍵を渡すというセレモニーも行われました。一部からは、平和村キャンプが政治化したと非難される一つの理由となったようですが、存続をかけての可能なことは在任中に行っておきたいというトップの意思表示のように思われました。公的な場で約束したこと、平和村キャンプをサポートする-という知事の約束は参加した学生、教員、教育省のスタッフや私などの部外者なども聞いた訳で、これをあっけなく反故にはできないと教育省の当時のトップは踏んでいたと思います。

 平和村が良いのは教育省が教員を研修に送ったり、専門家を呼んだりしながら外の助けを借りながらも、自らの責任でプログラムを行っていることがとても重要なポイントだと思いました。
 これまでいくつかの地域で、外部の助けでマニュアルまで制作したものの使われないまま本棚で埃をかぶっているという話や、研修には出たけど現場レベルでの実施に至っていないという話をしばしば耳にします。そういう話は非常にセンシティブな問題で、たまたま知り合いが勤務する政府系組織で、ミンダナオ島の平和教育プログラムを作成したといわれるものの、活用されていませんでした。そういう彼らに事実であっても「マニュアルが使われていない」と言ってしまえば、角が立ちます。しかし、彼らの作ったプログラムの話しは現場レベルでは一度だって聞いたことがなかったのが事実。(部外者として、そこは議論を争いません。)

[学んだこと]
 先日紹介したPeaceTechは大学生や社会人向けであったため組み砕きつつも理論的な説明を要所要所にお織り交ぜながら、ワークショップで深い理解を促しつつも知識的理解を参加者に要求しました。しかし、この平和村のキャンプでは、子どもたちが体験をベースに、より感性的にな学びを平和のイメージと結びつけることにポイントが置かれていたように思います。勿論、それらの体験から子どもたちは自らの言葉から経験を語り、語る中で学んだことの言語化が行われていたように思います。アプローチ、雰囲気作り、プログラムの構成、そして元気いっぱいの子どもたちを飽きさせない仕組みが随所に見られ、今後プログラムを作る際の参考となりました。
 
 
 
 
 

 

 


 





2013年6月16日日曜日

ミンダナオ島、平和教育事例紹介:Peace Village Residential Experience(平和村居住体験)(2)

 [平和村居住体験のインパクト調査の時の様子]

 平和村の開催に向けて10月25日に現地のコーディネーター、地元教育省の方との打ち合わせがあり、早めの現地入りをしましたが、出発の準備が忙しい10月19日にはミンダナオ西部のバシラン島で起こった政府軍とモロ・イスラム解放戦線(Moro Islamic Liberation Front: MILF)との武力衝突、それから立て続けにザンボワンガ、そして私の目的北ラナオにも武力衝突が飛び火をしたところでした。随時現地の情報をアップデートしながら慎重に現地出発の如何を決定しました。状況が滞在中に悪化したらすべきこと、撤退先などを話し合い可能な限りの準備をして現地に向かいましたが、現地に行けば一部の地域をのぞいてはごく平和であり、武力衝突が比較的近隣で起こっているのか疑われるほど平穏でした。

 カパタガンへのアクセスですが、飛行機でマニラからオザミスへ向かいます。オザミスからはフェリーと車です。車からは、マニラで見かけるのとは異なったトライシクルのスタイルが見られます。
オザミスの位置するのはお隣の州のミザミスオキシデンタル、そこからフェリーで対岸の北ラナオ州のTubodまで渡ります。15分ほどの船旅を終えて、車で一時間ほど移動して3つ目の町がカパタガンです。













内容盛りだくさんのプログラムの中身は以下のようになっています。
プログラム

1日目(10月27日(木))
 参加者の到着、オリエンテーション、アイスブレーク
2日目(10月28日(金))
 ワークショップ、異なる宗教ごとの祈り、ピースパレード、オープニングプログラム
3日目(10月29日(土))
 フィリピン国旗についてセレモニー、ワークショップ(暴力によらないコミュニケーション)、サービスラーニング、コミュニティサービス、感謝祭
4日目(10月30日(日))
 KIDs say no to gun、平和への誓、瞑想






[平和村に参加する子どもたち]
 多くの子どもたちは、年に一度のイベントに参加したいと言います。しかし、宿泊場所や移動手段の確保などを含めて参加者は北ラナオ州の各小学校から2~3人選ばれています。選考の基準は各学校によって異なりますが、学校によっては成績な優秀な子どもであったりしますが、一番重要なのは学校内でのリーダーシップと平和に対する理解、とある地域の校長先生は選出の基準を教えてくれました。参加対象者は小学校の高学年4~6年生ですが、1〜3年生であっても両親の承認があり、兄弟や姉妹の同伴で参加は可能になります。
 参加する学生たちは数ヶ月かけて自ら貯金をして、参加費と交通費を拠出します。勿論、送り出す学校側や教育省の何らかのサポートがあるようですが、基本的には学生がお金を出す。そうすることで、継続性の担保・プロセスを通じて子どもたちが何かを学ぶと言います。


[宿泊場所]
 平和村キャンプ期間中に宿泊し、またワークショップを行う施設が敷地内にいくつか建っています。子どもたちは学校ごとに宿泊しています。建物は各地域で寄付を募り、建てたようで、作りと規模は大体同じですが、内部の飾り付けなどは地域ごとの特色があります。

[子どもたちの到着]
 到着時間を前後して、子どもたちがジプニーや小型のワゴンやトラックで続々と到着します。残念なことに政府軍とMILFとの武力衝突があった地域の子どもたちは安全面への配慮からキャンセルということでしたが、遠くは車で4-5時間ほど距離から来ている子どもたちもいました。子どもたちは、キャンプにワクワクで、長距離移動で疲れも感じさせぬほど、到着早々から元気いっぱいでした。

[子どもたちとの交流]
 今回は子どもたちへのインタビューやプログラムのインパクを計りに来たのですが、やはり子どもたちと交流する時間を持ちたいと思い、早速到着したばかりの子たちを訪ねに彼らの宿泊場所を訪問しました。何人かの子どもたちは、恐らく初めて出会うであろう外国人に興味深々、英語とタガログ語を交ぜながら話しをします。何か日本を紹介できることをということで、持っていった折り紙で鶴の折り方を即興で紹介しました。彼らも照れながら、自分たちのことや宿泊場所の飾り付けなどについて説明をしてくれました。

 兎に角、元気いっぱい。明日から始まるプログラムにワクワクして、エネルギーが有り余っているようでした。

2013年6月15日土曜日

ミンダナオ島、平和教育事例紹介:Peace Village Residential Experience(平和村居住体験)(1)


2011年10月27日(木)~30日(日)、Peace Village Residential Experiences(平和村居住体験、以下平和村あるいは平和村キャンプ)の調査を行うためにフィリピン、フィリピンミンダナオ島北ラナオ州のカパタガンに行ってきました。平和村とは、フィリピンの第10リージョンの教育省が主導して行なっている年に一度の小学生のための平和イベント、一連の平和教育の教育パッケージでありまた、平和村のイベントが行われる場所をさしますが、平和村居住体験は泊りがけの平和イベントの名称です。イベントではワークショップあり、コンサートあり、出し物、花火等々何でもあり、小学生高学年の子どもたちはイベントを楽しみつつ、他宗教・文化に属する新しい友だちをつくり、平和について多くを学んだ期間となったようです。私自身は幼少期から他宗教への寛容を促す活動の重要性を今回の平和村の活動を通じて、一つの例として見ることができました。






 北ラナオ州は、フィリピンの首都マニラがあるルソン島に次いで2番目に大きな島、ミンダナオ島
の北部に位置し、幾度も政府軍とMILFの衝突の舞台になってきた土地です。滞在期間中、調査等々に同行してくれた地元の小学校校長はMILFの人質となった経験をしたと話してくれました。人口は約54万人、言語はセブアノ語とマラナオ語が話されており、クリスチャンが75%、ムスリム約20%、その他5%が先住民族とされています。ムスリム自治区(ARMM)外での平均的な人口構成比だと思います。州知事はフィリピンで当時最年少であるマホメド・ディマポロ氏が州知事です。フィリピン国内ではバギオの寄宿学校、そしてアメリカで学んだエリートで、イスラム教徒です。
 紛争と望まぬままにも同居してきたような歴史を持つ土地であるが故か、平和への強い思いを教員、イベント関係者から感じます。しかし、過去の歴史からミンダナオ島外から移住した主にキリスト教徒と人々と長くこの地に住む先住民族とムスリムの人たちにはお互いへの不信感があります。ムスリムの人たちは学校に子どもを通わせるとキリスト教化すると恐れ、一方のクリスチャンはムスリムが暴力的であると認識し、更には彼らの文化的、宗教的様式を知らないために見下したり、必要以上に避けていたといいます。

 平和村では、子どもたちが、交流を楽しみながらも平和について考え、学び、異なる宗教・文化を持つ人たちに対する理解と寛容を促します。そして、暴力を許容しない文化的素地を作っていくためにプログラムもこれまでの経験から工夫と改良を重ねて来ました。過去7回の取り組みの中から、レギュラー化した活動があります。Shower of Pace(平和のシャワー), Peace Parade(平和パレード), Service Learning(サービスラーニング), KIDs say no to gun(暴力への否定), Pledge to Peace(平和の誓), Meditation(瞑想), Non-violent communication(非暴力的対話のための研修)などです。今回はじめての試みは瞑想の時間をイベントに組み入れたことです。タイからPeace Revolution(ピース・レボリューション)というNGOが参加し、瞑想を教員に経験してもらうようにしているそうです。セッションはPVRE期間中2回ほど持たれました。PVREの中核的な教育省の平和教育推進しているスタッフがタイで実際にピース・レボリューションの研修に参加してそれを平和教育に組入れています。オンラインで小学生たちも瞑想のやり方を学んで実践していると聞きます。

 現在は教育省主導の年間行事のひとつとなり定着しましたが、元はリージョン10の教育省の当時の監督官であるDr.Mutia(ムチャ)さん着想と経験から始まったものです(ムチャさんは昨年定年されました)。5年前、マニラのトンド地区と北ラナオ州の若者との文化交流から、文化も住む場所も異なる彼らの交流がお互いにとって大きな学びとなり、刺激になったと経験を見て、ラナオ州の学生たちを交流イベントを考案し、そのイベントで学ぶ要素を通常の授業にも組み入れたと言います。
 
 日本の殺人発生率は0.5%(2009年調べ)、第二次世界大戦が終了して60年以上。私の世代は平和の時代を生まれ、安全な世の中を生きてきましたが、一歩日本から出れば暴力が身近にある中で生まれ育っている子どもたちがいるというのは何とも切ないと思ってしまいます。事実だけど、事実で終わらせないために行われている取り組みです。
 

2013年6月14日金曜日

フィリピン市民団体の事例(1) テクノロジーを用いて平和を推進する PeaceTechの挑戦 その4

 座学でモジュールの1〜3までを終え、モジュール4のプロジェクト立案の手順とスキル、5のリーダーシップトレーニングを1泊2日の日程でヌエバエシハ州のキャンプ場にて行いました。野外のワークショップは屋内ではできない様々なアクティビティをすることができるため、参加者のみならず企画する側もワクワクします。

会場に到着したら腹ごしらえ、バナナの葉をお皿にして皆で文字通り「一緒に」ご飯を食べます。
 バナナの皮に盛られた食事を手づかみで、参加者同士肩を寄せ合いながら食べます。個別のお皿に盛られた料理をスプーンとフォークで食べることに慣れている参加者は困惑しつつも和気藹々、手をご飯粒だらけにしながら食事と会話を楽しみました。





食事の後はチームビルディングのアクティビティをいくつか行いました。そのうちの一つで面白かったアクティビティは、縄をくぐって反対側に通り抜けるゲーム。
 二本の木の間に、蜘蛛の巣のように縄を貼り、参加者がその縄に触れないように反対側に通り抜けるのですが、同じチームメイトが通った穴は通り抜けることができないため、チームで相談して、身体のサイズにあった穴を選んだり、またチームメイトが足台になり、反対側でも支えながら協力して通り抜けます。
 万が一身体の一部が触ってしまった場合は、チーム一同でゴキブリがスプレーなどをかけられてもがいているような、仰向けで手足をバタバタさせるポーズをとります。
 何ともゴキブリポーズが間抜けなのですが、皆でやれば恥ずかしくない(笑)
夜は、目隠しされた参加者同士がお互いに肩をつかまりながら、幾人かのリーダー(すでにトレーニングを終えて、リーダー的立場でサポートするボランティアスタッフ)のサポートを受けて、いくつかのトラップをクリアしていくワークを行いました。
 目隠しで見えない中、手を引く相手への信頼、ゴールするという信念が試されます。トラップは、平均台の上を歩いたり、金網の下を四つん這いになって這ったり、タイヤのある場所を転ばないように歩いたりと大忙しです。日本でこういうことを行ったら、洋服が汚れる、あるいは危ないと不満が出るのではないかと思ってしまいましたが、ここはフィリピン、皆が楽しめて終わりよければ全てよし・・・でしょうか。

 これを終えると、キャンプファイヤー。そこでは、参加者が学びを今後の生活でどのように生かしていくのかを誓い、またワークショップで築かれた絆を強くしました。

 翌日は、最後に残ったプロジェクトの立案の方法のレクチャー。特にPeaceTechとしてのオリジナルなプロジェクト立案のレクチャーではないもののポイントを抑え、企画立案の助けになるコンテンツの構成です。
 プロジェクトのサイクル(計画-実行-振り返り)毎のポイントと注意点をあげます。自らボランティア活動やクラブなどで取り組んだ経験がある人はわずかであるため、質問は多くはありませんでしたが、キャンプ後にチームでプロジェクトを作るため、みな真剣に聞きます。

 プロジェクトは始めるのは容易いのですが、どのような結果をいつまでに出して、撤退するのか、そこが難しかったりします。そのようにして生まれてはいつの間にか消えたプロジェクトをいくつか見てきました・・・ので、参加者たちが問題にフォーカスした、背伸びをしすぎず、しかし十分にやりきれるプロジェクトを始めるようスタッフともに見守ります。

後日、何度かの参加者によるミーティングが開かれ、プロジェクト大枠が決まり、実行となりました。参加者の多数は大学生であるため、お兄さん、お姉さんとして高校生にゲームを楽しんでもらいながら、チームワークとリーダーシップを学んでもらうという1日完結のワークショップを作り上げました。高校生からすると歳が近いお兄さんお姉さんとともに遊び感覚で学べるワークショップを存分に楽しんでいるようでした。

 フィリピンの夏休みの間に行なった約1週間のワークショップ。その為、参加者の大半は学生で、一部は社会人、新社会人でした。学部の専攻や専門分野はそれぞれでしたが、平和学のエッセンスを噛み砕いて、演劇ワーク、ディスカッションを多く取り入れながら、気づきが多く、実践できる学びの場を提供できるよう心がけました。
 スタッフ側として、参加した学生・社会人がそれぞれのコミュニティで今回の経験をシェアしてほしいと思いました。フィリピンではまだまだ、ムスリムの人たちに接する経験が少ないためか、メディアなどの情報から彼らに対する偏見があるように思います。参加したムスリム・クリスチャン双方の参加者が両者の架け橋になればと思いました。

 PeaceTechではこうしたワークショップの他、大小規模のビデオコンフェレンスの実施、インターネットディスカッションなどを定期的に行っています。ディスカションのほとんどはフィリピノ語で行われるため、参加を希望する場合はフィリピノ語の基礎を知っておくともっと活動を楽しめます。

PeaceTech
Mobile Phones : +63 918 947 2690
Address : Unit 212 Tech Portal, UP-Ayala Land technohub, Commonwealth
1101 Quezon City, Philippines
Website: http://www.peacetech.net
Email: peacetech.net@facebook.com
Facebook: https://www.facebook.com/peacetech



2013年6月13日木曜日

フィリピン市民団体の事例(1) テクノロジーを用いて平和を推進する PeaceTechの挑戦 その3

 第3日目はモジュール1の続きで、ステレオタイプ、偏見、差別について学びます。どちらかというとコンセプチュアルな部分でややもすると、理論的になり、退屈になります。参加者を飽きさせず、わかりやすく説明するのにファシリテーターの手腕が問われます。

[差別・偏見について参加者の共有]
学問的分類では、文化人類学や社会学で扱う範疇を行き来しながらSocial categorization、Social identification、Social Comparison、Social Dominance Theory、Contact Hypothesis、Ethnocentrism、Cultural relativismなどのコンセプトについて説明し、午前中の時間を使って一気に駆け抜けました。異なるグループでも接触する機会が増えるにつれて、偏見の要素が軽減すると言います。夫の研究で、ムスリム・クリスチャンの学生でクリスチャンの学生がムスリムの学生の友人、あるいは逆の場合でも友人を持つことで、異なる宗教を持つ人に対する態度によい意味での影響があると言います。
 これまで色々なNGOがフィールドの経験から、インターフェイスが異なる宗教間の理解促進に有効だとして、活動を行ってきましたが社会学の調査がある種の答えを与えてくれそうです。
 
 講義を受けて、自分が差別された経験、被差別の経験を話し合う場を設けました。差別された経
験、した経験をどのように克服したのか、ムスリムの参加者は、タクシーで乗車拒否、寮の入寮が許可されなかった等々の経験を持つものも数人おり、それに対してはイスラムの教えにある寛容さと忍耐でもって克服するといった話などが聞かれました。
 差別された経験を話すのも難しいのですが、逆に差別した経験を話すことはもっと難しいように思います。そのためか、もしくは参加者がそういう経験がないためか?差別された側の話を聞くこととなりました。ただ、差別や偏見が参加者の生活とは遠くはないこと、どう行動すべきなのか等改めて考えているようでした。

[差別と偏見のワークショップでの学び]
 交友関係を持つことで、異なるグループの人同士の心理的な距離が縮まることを理解しましたが、それとは別に近いものほど交わるのが難しいと思いました。つまり、クリスチャンであれば、クリスチャンでも教派が違うこと、違う習慣を持っていることに対して反発があると感じました。また、異なる宗教の和解は主題にはなるけど、クリスチャン内部での相互理解、異なる教派での理解は起こらないと思ってしまいました。ここオランダでは、プロテスタントによるカトリック教徒への反発、ネガティブな発言があると聞きます。

モジュール2はPeaceTechの真骨頂、技術を用いて平和を推進する。その為のツールを学んでいき
ます。ここでのツールは主に、ビデオ・写真・ブログの技術論です。

 PeaceTechのスタッフであり、ブロガーそしてアニメコスプレの大好きな(笑)スタッフによるブログ講座。ブログの歴史から、ソーシャルメディアの活用方法、そしてテーマを決めて、適したメディアを選び、書きはじめる一般的な内容でしたが、重要なことは皆が情報の発信者になれるということ、そして、思い立ったら始められるということでした。写真は、どの瞬間を捉えるのか、どういうメッセージを見るものに与えたいのかなどはなされました。レクチャーがメインでしたが、このあとブログなどを始めた参加者もいたようです。

 ワークショップで重要なのは、コンセプトを理解することも重要ですが、全体のデザインとして参加者が日常的にできることを提案し、参加者がワークショップ終了後それらを実践して、その経験を積み重ねて行けるかだと思います。なので理論とともに技術を学べるというのはよいことだと思います。
  
 こうしてブログを書いているうちに、オランダで平和教育のワークショップに関わるかもしれなくなりました。もう一度、自分で作ったモジュールの見直しと、事例の整理をしなければと思います。







 

2013年6月12日水曜日

フィリピン市民団体の事例(1) テクノロジーを用いて平和を推進する PeaceTechの挑戦 その2

PeaceTechのformation workshop第1日目

お祈りで始められたワークショップ
Formation workshopとは若者(高校生~大卒30歳ぐらい)を対象に行われる平和教育のコンセプトに沿って行われるワークショップで、特にムスリムとクリスチャンの相互理解の推進のため行われます。ワークショップやキャンプなどがセットになっており、それを通じて平和教育の基本概念に触れる他、普段あまり交わることがない異なる宗教的背景を持つ参加者が親しい関係を築けるということも狙いです。

 ワークショップは1週間かけて行われ、その内容はモジュール1-5に分けられており、Moduleごとにテーマがあります。

モジュール1のテーマは平和の文化の創造(Creating Culture of Peace)。平和教育のコンセプトに沿って、平和、紛争、平和の文化の基本的な概念について学んでいきます。
モジュール2ではテクノロジーを用いて平和を築く(Building Peace through Technology)、PeaceTechの真骨頂であるテクノロジーを使って平和を実現するというのを講義と技術的な側面から学んでいきます。技術的な指導、どのようにブログをはじめるか、カメラの撮り方、ビデオの撮影の仕方等々を学ぶ。
モジュール3は基本的なファシリテーションの技術(Basic Facilitation Skills)を学びます。ワークショップの後はグループとしてプロジェクトを持つことを推奨しますので、どのようにワークショップを進めるのかを学びます。
モジュール4で、プロジェクト立案の手順とスキル(Project Development and Management Skills)を学びます。このワークショップの後プロジェクトを立案し、団体のサポートの下で実施して行くのは彼ら参加者です。どういった問題にフォーカスして、どのような手法を用いるのか、評価も含めての話しとなります。
モジュール5がリーダーシップトレーニング。これは屋外で、キャンプを通じて楽しく遊び楽しみながら学びます。

フィリピンの学生が世界を見たとき・・・
どう捉えるか?
モジュール1
 朝の8時半からレジストレーション、両宗教(ムスリム・クリスチャン)の祈り、自己紹介~からワー
クショップが始まります。第一日目と二日目にわたってモジュール1を行います。今日は基本となる平和についてのコンセプト、平和の文化について学び明日は紛争の分析、どのようにそれを取り扱うのか等を学んでいきます。


















 私と旦那は平和についてのコンセプトを担当しました。
各自が考える「平和」を絵と、彼らの言葉(フィリピンの多言語環境を考慮して)で表し、説明してもらいました。
「平和」そして「紛争」は人生の中で誰もが異なる環境で、自分自身の環境として持っているので、定義に間違いや正解はありません。のちに平和学で使われている平和の定義について説明をしましたが、補足のみにとどめました。






このワークショップから、いくつかの質問をもらいました。

1. 直接的な暴力と間接的な暴力というものはあるのか。

2. Spiritual Violenceなるものはあるのか。

3. 暴力というものは意図的か、それとも意図的ではないのか。

4. 口頭(コミュニケーションによる)暴力と直接的な暴力(身体的)な暴力はどちらへの対処がより難しいか。

 

 モジュール1の続き、ワークショップ二日目は、私の担当である紛争の分析(Conflict Analysis)か
ら始まりました。まず、とある団体で起こったとある問題(紛争)の一局面を見せて、そこから何に気がついたのか、そして少しだけ問題の理解(実際何が起こっているのかを分析する)のために平和学で使われている理論/考え方を紹介して、その後に解決を参加者に見つけてもらうという流れで行いました。賞味一時間半。

 今日の対象者である、主に大学生が直面するであろう課題、何かの団体に所属していて、お金を余分にもらった/寄付30,000ペソ、それをどうやって使うのかというところで意見が相違。当事者は団体の長とそれを補佐する事務局員、その二人を中心に話がだんだんエスカレートしていくという筋。団体の長は新しいパソコンの購入を主張。事務局員はスタッフのトレーニングを主張。

 PeaceTechのスタッフに参加してもらって劇をしたのですが、昨日の打ち合わせ以上にアドリブでしゃべるわしゃべる(笑)。台本ではセカンドパーティが介入するところでしたが、介入のタイミングを見失うほど。セカンドパーティが入ってきて、やれ団体の運営の仕方が悪いだの、なんだなと話もそれていって、そこでなんとか一区切り。

 意見の違いや、実際は団体の長も事務局員も団体の長期の益を見ているなどなどの気がついた点が上げられました。問題は、異なる欲求をみたせる十分な資源がないこと。もしかしたら、ジェンダーの問題(女性が積極的に意見を言えない状況)が絡んでいるし、歴史の問題も絡んでいるかもしれないので紛争にからむコンテキストをちょっと説明しました。

 紛争分析では当事者のポジション、関心、ニーズに焦点を当てていくツールを用いて説明。ポジションは実際に彼らが何を言ったのか。関心は彼らが本当にほしいのは何か。ニーズは、彼らが本当に必要としているのは何か。

 ポジションは上記のとおり、長はパソコンの購入、事務局員はトレーニング。関心は、新しいパソコンを買うことで、作業の効率化を図る。トレーニングを機会を得てスタッフのスキルを上げる。ニーズは双方ともに実は団体の発展を促すためである。表現の方法は異なれど、お互い団体のためを思っての提案であることに行き着きます。

 その後参加者に実際にそのスタッフが演じた役に成り代わって、せりふを変えて、紛争に対する態度を変えて解決に導くように演じてもらいました。はじめはまったく解決につながらなかったものの次第にお互いが本当に欲するものが見えて、新たにドナーに働きかけて寄付をしてもらい一件落着?でワークを終えました。

 このワークはより参加者が経験している、あるいは日常で直面する問題であることが肝。学生対象に夫婦問題を解決する劇とワークをしてもらうことでもしかしたら、問題に近すぎる人たちが考える以上に創造的な解決方法に至るかもしれませんが、リアリティにかけてしまう場合があります。

 モジュール1を一通り終えて、ある程度の実践を伴った理解に行き着いたように思います。

2013年6月11日火曜日

フィリピン市民団体の事例(1) テクノロジーを用いて平和を推進する PeaceTechの挑戦 その1

2011年の話。カナダのジャーナリストが立ち上げた、フィリピンの団体PeaceTechのワークショップをお手伝いしました。PeaceTechは、平和(Peace)と技術(Technology)を掛け合わせて作られた団体名で、その名の通り技術を用いて平和を推進する事業を特にワカモノ対象に、フィリピンのムスリム(イスラム教徒)とクリスチャンとの相互理解を目指して、マニラと南部のミンダナオ島を結ぶビデオコンフェレンスを開催したり、インターネット上で時間を設定してのチャットディスカッションや、トレーニングなどを実施したりしています。

 この団体との出会いは私の初めてのフィリピン滞在の年にさかのぼります。仕事の傍ら、平和系の団体に片っ端から会っていた時に、ミンダナオ島とつないでビデオコンフェレンスを開かれるということで招待を受けたことに始まります。

 フィリピンで起こっている紛争はいくつかあり、その紛争の当事者も様々で、イスラム教徒による現在MNLF(モロ民族解放戦線)、アメリカでテロ組織として指定され、外国人誘拐をすることで有名なアブ・サヤフ、昨年に和平交渉が劇的に進んだMILF(モロ・イスラム解放戦線)、や近年過激化しつつある共産系グループNPA(新人民軍)とフィリピン政府との武力による衝突が今だに起こっております。イスラムの人たちは、フィリピンの南方部に住んでおり、前3つの団体と政府軍との衝突はフィリピンの南部で起こっていたため、彼らの住む地域は危険と言われ、またそれらニュースの故にムスリムの人たちに対する偏見や差別につながっていることは否めません。ムスリムの人たちへのタクシー乗車の拒否や、学生寮などでは入寮を拒否されるケースもあるそうで、ムスリム=怖い人たち、というイメージがあるようです。

 PeaceTechのビデオコンフェレンスでは、南部に住むイスラムの人たちが紛争によって避難した経験、紛争後の生活の様子などを語ります。それをマニラの学生たちが聞き、質問をしたり、語りをもとにグループでディスカッションなどを行います。若者の理解度を測り、その後の行動の変容を知ることはできませんが、多くの参加者を集うことで、インパクトを持たせることができます。勿論、当初の目的、ムスリムは「怖い」と思っていたけど、彼らも紛争によって苦しんでいる人たちであるという理解と共感を引き出すことが出来たように思います。



私がお手伝いしたワークショップも同様に、ムスリムとクリスチャンの学生の混合で行い、理解の促進を促します。これまで、身近にムスリムの友人がいなかったというクリスチャンの学生もおり、彼らにとってムスリムの学生の視点や意見は新鮮なもののだったようです。勿論逆も然りですが、マニラのあるルソン島はクリスチャン人口比が高いため、イスラム教徒の学生もクリスチャンと机を並べ、共に勉強したりする機会がありますので、クリスチャンの学生がムスリムの学生と交わる機会よりは多いようです。ワークショップにアイスブレークゲームを交えながら、楽しみながらそして時には深く意見を交換し合う場も見られました。

<続く→ワークショップの様子>