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2017年6月21日水曜日

世界は平和になりつつあるのか?-世界平和指標2017発表

世界は平和に近づきつつあるのか?

毎日どこかで戦争があり、毎日どこかで人が戦争・犯罪などで亡くなり、テロのニュースも頻繁に聞くようになって久しい今日。世界は平和から程遠いのでは?と思われます。しかし、"昨年に比べて"ちょっぴり、平和に近づいた!と世界平和指標はいいます。

昨年に比べて、平和指標は全体平均で0.28%上昇し、世界は少しだけ平和になりました。(163カ国をカバーする指標中)93カ国で平和指標の上昇が見られ、63カ国で低下、世界の最も平和である国と、最も平和から遠い国とのギャップは広がりました。
(Global Peace Index 2017 Highlightより)

今日2017年6月13日、オランダハーグのシンクタンクThe Hague instituite for Global Justice で、世界平和指標2017年版の発表があり、参加してきました。


Global Peace Index (世界平和指標)
http://visionofhumanity.org/app/uploads/2017/06/GPI-2017-Highlights-1.pdf

世界平和指標(The Global Peace Index、以下GPI)とは

GPIとは、文字通り各国の平和度を計る指標です。オーストラリアに本拠地を置く世界的シンクタンクInstituite for Economics and Peace によって作られました。23の指標をもとにして専門家の定めた視点を1から5のスコアで評価し、それを総合した値で平和度を測り、毎年世界の傾向を発表し、また国別のランキングを出しています。

現在進行中の国際・国内の紛争を紛争での死者数、長さ、近隣諸国との関係等6つの指標から評価し、セキュリティを犯罪率、国内外の難民、政治的安定、テロリズムのインパクト、殺人率、暴力犯罪、受刑者数、人口10万人に対する警察の数など10の指標から評価、そして軍事化を軍事費、10万人単位での軍人の数、通常兵器の輸出入、国連平和維持部隊への財政的貢献、核兵器、重火器・核兵器の所有、小型武器・軽武器へのアクセスのしやすさなど7の指標によって評価します。

2017年度の傾向

この指標の提唱者である、フィランソロピストのオーストラリアの企業家スティーヴ・キレリアが2017年の評価を発表しました。

オーストラリアの企業家スティーヴ・キレリア氏


2017年度のサマリーとして3点、1)平和指標は全体平均で0.28%上昇。この上昇は2014年以来のもの。2) 93カ国で指標は向上し、63カ国で悪化。3) 悪化した理由は、国内紛争と近隣諸国との関係性の悪化によるもの。4) #3に抗するべく改善された点は国外紛争と政治テロ。5) シリアは引き続き、平和指標の最下位にとどまっている。6)エチオピアとブルンジは指標が大きく低下した。 7) 北アメリカはアメリカの指標の低下に影響し、全体的に下がった。 8) アイスランドは再び、最も平和な国にランキングされた。9)中央アフリカ共和国とスリランカは大きな改善が見られた。10) 南アメリカは地域として大きく向上した。11) ヨーロッパは地域として最も平和であるが、セキュリティの面で指標は大きく低下した。

2017年度、世界で最も平和な国ランキング
1 アイスランド
2 ニュージーランド
3 ポルトガル
4 オーストリア
5 デンマーク
6 チェコ
7 スロベニア
8 カナダ
9 スイス
10 アイルランド 日本

 平和指標下位10カ国
163 シリア
162 アフガニスタン
161 イラク
160 南スーダン
159 イエメン
158 ソマリア
157 リビア
156 スーダン
155 中央アフリカ共和国
154 ウクライナ
153 コンゴ民主共和国

過去10年のトレンド

2008年以来、平和度は2.14%悪化し、80カ国が向上する一方で83カ国が悪化しました。
67%の国で殺人率が低下、政治的テロ率は低下し、平均的な軍備に費やすレベルは向上しました。一方でテロは広がり、特にOECD諸国でのテロによる死者数は900%上昇、国内紛争は増え、死者数は2015年で97,241人、6500万人が難民となっており、この数は10年前の2倍の数値です。

暴力の世界経済への影響

暴力が経済に与えるインパクトは、約143兆ドル(日本円:1 566.43663 兆)で、GDPの12.6%、一人当たり1,953ドル(21万円)。平均的な暴力のコストは、最下位10カ国ではGDPの37%を占め、一方で平和な国トップ10のGDPではわずか3%でした。戦争や暴力は、経済に甚大な影響を与え、その傾向が紛争中とその後において顕著です。シリアでは、2011年~2014年の間でGDPが53%低下しました。

平和を測ることの意義

これまで、軍需産業が如何に国の経済に貢献したのかという点で戦争が経済に与える影響が述べられることが多かったように思います。そして、それらの指標の分析は技術的にしやすかったと思います。

平和を測ることの難しさは、他でもなく平和という概念の広さと、包括している分野の故です。「ネガティブピース(Negative peace)」、暴力を具体的に止めるということから、「ポジティブピース(Positive peace)」と呼ばれる構造的な問題ー不平等、貧困、人権問題などを含めると概念が包括する分野は一気に広がります。多様な概念をも含んで平和を測ることは、学術的には大きな挑戦でありますが、その意義は人々の平和への不断の努力を知ることができること、そして指標が低下している国に対して国際社会が注意を払うべきことを知ることができることだと思われます。

経済の発展のために平和をというと何とも合理的かつ、人命にかかわる分野を冷徹に金銭に換算すると捉えられるます。そして、指標によって計られたGDPの向上、経済的発展によって起こる問題もあります。しかし経済の安定的発展によって防ぎえる構造的な暴力もあります。経済とは両刃の剣であると思われますが、この指標とそこに向けられる努力は評価されるべきなのではないかと思います。

実はこの平和指標の発表、コスタリカの平和大学で提唱者のキレリア氏が発表した際偶然に居合わせたことがあります。2008年で当時は指標を作り発表して2年目の時でした。あれから10年近くたち、10年というスパンで傾向を見ることができるようになりました。

これからの10年、この指標の値が向上し続けるよう、努力を払いたいと思います。