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2016年9月16日金曜日

暴力に抗するには―シカゴの実践から

ドキュメンタリーThe Interrupters (2011) のアメーナ・マシュー(Ameena Matthews)さんがハーグに来て講演するとの情報を得て、ハーグ・インスティチュート・グローバル・ジャスティスの講演会場に行ってきました。




The Interruptersとは?

おそらく日本では上映されておりませんので、ひとまず作品の紹介を。2011年公開の非営利映画製作会社Kartemquin Filmsによる作品。Interrupterとは「妨害者」の意味。妨害者といっても、主な登場人物が暴力的な行為で何かを妨害するというものではなく、人々を暴力のサイクルに陥らないように妨害する人、暴力からコミュニティを守る人たちに焦点を当てたドキュメンタリー。



舞台となるシカゴはアメリカのニューヨーク、ロサンゼルスに次ぐ大都市。人口は大阪市と同じぐらいの270万人。今年1月から現在まで500件以上の殺人事件がありました(同市昨年比でも増加しているとのことです)。これがどれぐらい多いのか、日本と比較してみると、2015年1年間で、日本は933件の殺人事件があったので人口比で考えて、殺人事件、そしてその他の犯罪が日本はもちろん、ヨーロッパなどの都市に比べて多いことがうかがえます。ただ、注目すべきは犯罪がどこで、誰によっておこされているいるのか。そして銃器の使用。

上記の”妨害者”は、疾病の予防・治癒のような手法で、暴力の予防に取り組みます。暴力の根源を突き止め、それらに効果的な治療を施します。社会にこれを適応すれば、暴力的でかつ周囲に影響を与えている人物を特定し、彼らと接し、彼らのもつ社会的規範を変えていきます。

規範は社会学用語ですが、簡単にいえば行動のよりどころとされている社会からの期待とも言えると思います。犯罪に手を染める若者には彼らの所属するグループにおける”規範”があります。学校文化、社会がよしとするものへの反発、暴力をカッコイイとする規範を仲間うちの中で築いていきます。それらを若者たちに叱咤激励、寄り添いながら、そして信頼を得て、変えていきます。

アメーナさんの話
アメーナさんとはだれか?ドキュメンタリーで取り上げられた3人のうちの一人、唯一の女性。アフリカ系アメリカ人、そしてイスラム教徒。お父さんはギャングの親分で、現在は収監中。
ドキュメンタリーの話というよりは、彼女がどのような環境で育ち、誰から影響を受けたのか、などまるで近所の人との世話話を楽しむように、聴衆に話し聞かせてくれました。


アメーナ・マシューさん(左)、司会のアビ・ウィリアムさん(右)
家族の話では、両親の話はあまり出ず、おばあちゃんがどのように彼女を育てたのかを話してくれました。おばあちゃんの知恵と影響のためか、自分の家があまり貧しいと思ったことはなく育ったといいます。おばあちゃんは「○○だから、△△できない」とは言わなかったといいます。ある日、友達の家に行ったときにカラーのテレビがあり、それらを見てなぜうちにはないのか、そこで貧しさについて他の家と比較して気がついたそうです。

いろいろな人生のエピソードにふれましたが、その一つとして、学生時代の話がありました。学校の先生が、彼女が触れると黒くなる、あるいは彼女が触れたものを触ると(間接的接触で)黒くなる皆にいったそうです!まったくありえないような先生がいるもので驚きましたが、彼女は本当なのかと、わざと他の人のボールペンを使用し、体操着の名前を塗りつぶして着用したそうです。それで本当にそれらを使用した人が「黒く」なるのかと、ためしたようです。

エピソードが次から次へと出てきて、さまざまな登場人物が出てきて、話を追うのが大変でしたが(笑)彼女の話には彼女のおばあちゃんからの、あるいは彼女の経験からくる名言もちりばめられており、聞きもらすまいと私を含め、聴衆は必死だったはず。

会場の様子
1時間という時間内で、彼女のライフストーリーを聞き、そして質疑となる予定でしたが、質疑のための時間があまり残されず少々残念でしたが、会場は彼女のパワーに圧倒されていた様子。

会場は女性の参加者が多く、講演後彼女と個人的なコンタクトを持ちたい、質問したいという人たちが列を作りました。私もそのうちの一人でしたが、結局人が多すぎて質問ができませんした。その代わりどさくさにまぎれてちゃっかり一緒に写真を1枚とりました。



最後に、彼女の話とドキュメンタリーの肝は一体なんだったのか?暴力に暴力で抗しても望む結果「暴力からコミュニティを守る」が得られないということ。暴力は病気の病状に似て、そこに至る積み重なった原因があるのだから、それに根気強く対応しないといけません。

アメーナさんのおばあちゃんの、「be persistent!」、根気強く、粘り強くなれというアドバイスは、妨害者としての活動の中で、粘り強く若者に接し、コミュニティを暴力から守っていくという彼女の活動の中に活きていると思いました。

そして、「生」と「死」という選択肢があるのであれば、明らかに「生」を選択すべきだと力強い言葉が印象に残りました。「死」は解決ではなく、暴力の敗北的帰結なのだと私は理解しました。

2016年9月5日月曜日

フィリピン、テロとの戦い-ダバオナイトマーケット爆破事件

フィリピンでは、ドゥテルテ政権の下、2つの戦争―ドラッグとの戦い&テロとの戦いが進行中です。先日のダバオ市の爆破事件は、特に比政府のテロとの戦いを激化させました。これらの闘いに勝利はあるのでしょうか。

Davao crocodile park
ダバオ市のワニ園にて撮影 2009年


テロとの戦い
アブサヤフによる未成年者の斬首事件
アブサヤフは、フィリピンそしてアメリカでもテロに指定される団体で、フィリピン南部のホロ島やバシラン島などのスールー諸島及びミンダナオ島のサンボアンガ半島などを拠点で活動していおり、近年は組織的誘拐(誘拐ビジネス)によりその活動資金を得ている。先月末、誘拐された未成年者がアブサヤフの手により斬首されました。それを機にミンダナオのスルー州で大規模な掃討作戦を行っています。

ダバオのナイトマーケットの爆破
フィリピン、大統領が長年市政を務め、現在は大統領の娘が市長を務めるダバオ市で9月2日金曜日の夜ナイトマーケットで爆発事故が起こり14名が死亡、67名が負傷するという事件が起こりました。

(C) APF ダバオ事件後の様子



無法状態宣言(State of Lawlessness)
事件後、外国人誘拐事件を繰り返す、アブサヤフが犯行声明をだしました。これに対して、ドゥテルテ大統領はフィリピン全土に無法状態宣言(State of Lawlessness) を発令しました。2003年に全体大統領グロリア・マガパカル・アロヨがダバオ市限定に発令しました。これは、以前マルコス政権時代に発令した厳戒令は異なります。

**無法状態宣言(State of Lawlessness)って何?
1987年憲法で、大統領は無法な暴力を防止あるいは抑圧するために軍を招集することが許されています。
18項、7条で、フィリピン共和国大統領は、必要があればフィリピン国軍の指揮官となるとされます。大統領は軍を招集し、無法な暴力、侵略、反乱を防止し抑圧するであろうと記されています。

大統領の非常事態や国家の危機的状況に対する措置は3つの段階があります。まずは今回の措置、その上の段階は権力は、国民としての特権である人身保護礼状を一時時にさし止めし、裁判を経ずに捉え収監することが許されるようになります。最終段階が厳戒令です。

無法状態宣言(State of Lawlessness)とは具体的にどういうことなのか。
チェックポイントを増やし自動車やバイクの検問を実施、軍はその基地を離れて外でパトロールをすることになり、一般国民の目に多く触れることになります。
ミンダナオは例外的に軍人を高速道路沿いでよく目にしますが、私が生活していたビコール地方では勿論、他の地域では見られない光景です。また、夜間外出禁止も場所によっては指定されると思われます。

大統領ならやりかねないと思いつつ、私はこの措置にかなり驚きました。ダバオやミンダナオだけであるならまだしもフィリピン全国、無法状態宣言(State of Lawlessness) は行き過ぎた措置なのではないでしょうか?まず、行き過ぎた警戒で、返ってテロリストたちへの過剰反応であると見られてしまい、宣言の発令が投資に影響すると考えられるためです。

「処刑OK?ドゥテルテ大統領の過激な麻薬対策」

今後、厳戒令にまで引き上げるとは思いませんが、テロとドラッグ問題は重複すると警察庁長官が発言し出し、より暴力が公に許されてしまうことが懸念されます。アブサヤフが犯行声明をだしているものの、政権の就任以来の過激な麻薬対策+超法規的殺害に対する反応とも見られているためです。テロリストと麻薬王が重複する?あるいは協力体制にある?と。

しかし、そうだとしたら政権の用いた暴力に対する「暴力」での応酬とも見られます。一部国民および在比外国人はこれで治安がよくなると大統領を支持しますが、フィリピンは一部暴力がはびこる地域があっても法治国家であるということ、そして過激な政策には報復として過激な反応(カウンター)があるということを忘れてはいけません。

また、憲法により明記されているこの大統領が有する権利、行使が適切であるのか、国民は常に目を光らせておかねばなりません。